みちのく砂丘Ⅱ

仕事と関係ないことについて書きます。

ユリシーズ

 

ユリシーズ〈1〉 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

ユリシーズ〈1〉 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

 

 

ブックオフで古本を衝動買いしてしまい、「部屋からものを減らすために古本屋に行ってるのに意味ない」と反省して、部屋に積んである本をまた大規模に売却することにしました。総体として減らしていかないとなー…。

 

と、全然関係ない前置きでしたが、積んであったうちの有力な一つがこの『ユリシーズ』。20世紀アイルランドの作家、ジェイムズ・ジョイスの大作です。

以前に勢い込んで集英社の文庫版4冊を買ってみたはいいのですが、あまりの難解さに最初10ページくらいで挫折してしまい、そのままになっていたのです。売却前にと思って、本当にざっとですが通読してみました。

 

『ダブリンの市民』や『若い芸術家の肖像』はまだ読めたんですけどね…。

最初からいきなり人の意識をそのまま文章にしたような文体、つまりちゃんとした説明長の文章ではなくセリフも情景描写も一体なので非常にわかりづらいのです。しかもセリフは誰がそれを発話しているのかも記述されないのでますますわからない。

さらにパートによって文語調の和訳になったり(元の英語が文語調なんだろうと思いますが)、演劇の台本みたいになったり、句読点も段落分けも一切ない独白が何十ページも続いたりで、とにかくどっかにあった表現を借りれば『言葉の宝石箱』。

たしかにキラキラしたイメージだけは頭に残るのですが、結局どういう話だったのかはわからないままですね。

 

とりあえず、主人公は二人。『若い芸術家の肖像』の主人公でもある若者、スティーブン・ディーダラス。彼の名前の元ネタはダイダロス。この小説自体がホメロスの『オデュッセイア』のパロディ的に、ダブリンのある平凡な一日を神話的なきらめきをもって描いたものなので、まずはこの辺のギリシア古典を理解していないと解読不可能です。当然ギリシア古典なんか読んだことないのでその時点で挫折するわけですが。

スティーブンは、『若い芸術家の肖像』で、厳格なイエズス会の宗教教育についていけなくなって、最終的に宗教生活をやめて芸術家を志向しています。しかしスティーブンの大好きな母親はキリスト教の敬虔な信者なので、死の直前、スティーブンに対してキリスト教式の祈りを請うわけです。しかしもう信仰を捨てたスティーブンにはそれができない。そのためちょっと荒れているようです。

 

もう一人は新聞社員のブルーム。彼はユダヤ人で、素朴でべらんめえな下町のアイルランド人を少々見下している風もあります。妻のモリーとは現代風に言えばセックスレス。息子が早世したことが夫婦間に影を落としています。彼は物語の終盤で妻のモリーが浮気をしたことに気付くわけですが、それでも怒らず、今度はずっと若いスティーブンを妻に引き合わせようとします。この辺の心理はよくわかりません。「寝取られ属性」なんだろうか…。妻が浮気をしてもその浮気が自分のコントロール下にあれば精神的な安定を保てる人なのかもしれませんね。あと性的不能者というわけではなくて、物語の中盤「ナウシカア」の章では、浜辺で遊ぶハイティーンの少女が足を開いて下着を露わにしているところを見て、その場でマスターベーションを始める(気づかれてもお構いなし)などよくわからないところもあります(結局このエピソードが一番インパクトあった…)。

表向きはまともで整ってるように見えても不合理かつ変態なところがあるっていう、まあそういうリアルといえばリアルな人間の姿なんですかね…。

 

とりあえずそういう猥雑なものや悔恨や青春の暴走みたいなものが一体になってこの『ユリシーズ』の世界を形成しています。

読むときは、単純にお薦めはできないので、まずはあらすじを把握するか解説を先に読んでから、脚注付きのバージョンを読んだほうがいいと思います(これをしなかったので、自分は挫折しました)。