これは文庫版じゃないのを読みました、ベルギーの詩人、ローデンバックの『死都ブリュージュ』。
オペラ『死の都』の原作だそうです。
美しい妻に先立たれ、思い出の残るブリュージュの街で、妻との楽しかった思い出に捉われたまま、失意の日々を過ごし続ける男、ユーグ(主人公)。
ある日、路上で妻と瓜二つの美しい女性を見つけます。後をつけると、その女性はジャヌという踊り子であることが判明。踊り子と言えば、禁欲的な信仰が主流のブリュージュでは蔑まれる職業。しかしユーグは周囲の視線にも構わずジャヌと交流を始めるようになり、愛人同様の扱いで、住まいを買ってやったり、高額な装飾品を貢いだりします。
ユーグの入れ込み方はエスカレートし、妻の死後も大切に保管していた妻の服を持ち出し、それを着てくれるように、ジャヌに懇願します。事情を知らないジャヌは、そんな古臭いデザインの服など着たくない、と最初拒否したものの、事情を聴くと、面白そうにその服を着てしまいます。
しかし、願いがかなったその瞬間、主人公が感じたのは喜びではありませんでした。踊り子の格好をしていたからこそ亡き妻との立ち居振舞いとの違いが覆い隠されていたのに、亡き妻の服を着てしまったことで、常に上品だった妻と、卑しい育ちのジャヌとの違いがそれまでになくはっきりと浮かび上がってしまう。ジャヌがその服を着て楽しそうにはしゃげばはしゃぐほど、その違いは際立ってしまいます。
奇妙な失望と幻滅を感じるユーグ。
ここから少しづつ歯車が狂い始め…。
と、中盤までの簡単なあらすじを書くと、こんな感じです。
けっこうね、今読むとありがちな話のようですけど、年代を考えると相当先進的なこと書いてますよね。ショートの現代ドラマにありそうな筋書きで、むしろこれに影響を受けた作品が多いせいで「どっかで見た」感があるのかもしれない。
作品としても分厚い作品ではなくすぐ読めるので、良かったです。