みちのく砂丘Ⅱ

仕事と関係ないことについて書きます。

ユリシーズ 第14章 太陽神の牛

アイルランドの作家、ジョイスの『ユリシーズ』の中でも最も難解と言われる章の一つ、第14章「太陽神の牛」。

今のところ市販の本で和訳が読めるのは丸谷才一氏の訳だけです。

 

ユリシーズ 3 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
 

 

柳瀬尚紀氏の訳が期待されていたようですが未完(第12章まで)のまま、お亡くなりになられました。

 

丸谷才一氏の訳は英語の古典を日本の古典に引き直して訳し直しているので、一般的には高く評価されているようですが、私のような文学素人にはただ読みづらいです。

普通に英語だとどうなんだろう、というところで読みたかった。

その意味では、丸谷才一氏の訳に訳注が多すぎるということで批判的だった柳瀬尚紀氏の訳は本当に読んでみたかったのですが。

 

例えば丸谷才一訳で意味不明だったポイントの一つ。

 

「この世はまさに悪のしろしめす世にあらずや、下衆はさは信じずとも、律も検非違使もえ救はず」

(単行本バージョンだと第Ⅱ巻の327頁、文庫版だと第Ⅲ巻)

 

 

日本語としても意味がよくわからないんですが、拍車をかけるのが「律」や「検非違使」など、古代アイルランドにあったはずのない言葉。

英語版『Ulysses』の原文(著作権が切れているようで、Amazonで無料で入手できます)の該当箇所をどうにかこうにかして探したら以下のような英文でした。

 

 

"the world was now right evil governed as it was never other howbeit the mean people believed it otherwise but the law nor his judges did provide no remedy." 

 

 

私の貧困な英語力ではよく分かりませんが、丸谷才一氏の訳を参考にして古文ではない言葉にすると

 

「世界は今まさに悪に支配された。卑しい人々はそうではないと信じていたけれども。しかし法も、裁判官たちも何らの救済も用意してはくれないのだ」

 

的な?感じですかね。

 

じゃあ「律」にせずに「法」、「検非違使」にせずに「裁判官」にしたらよかったじゃん!と思ってしまうわけですが、原作者ジョイスがこの第14章「太陽神の牛」に関しては古代の古めかしい言葉を使っていることに配慮して和訳も古文風にしたんでしょうね。

そのへんを下手に工夫してしまったせいで、二重に分かりづらくなっている感じもありますが…。

誰かもっと簡単にくだけた現代語で訳してくれないですかね。

いずれ気骨ある若手英文学者または翻訳家が世に現れることを願いつつ。