島田荘司先生の吉敷竹史シリーズは、「はやぶさ」「出雲伝説」「夕鶴」の後も、ややマンネリ化しながら(失礼)続いていっているようです。
マンネリとか言うとおそろしく失礼なんですが、実際、第4作に当たる「高山殺人行1/2の女」は実はあまり評判が芳しくない。その後も「ら抜き言葉殺人事件」とかあるみたいですが、3部作と比べるとタイトルからして小粒感は否めないですね。
そんな偉そうな前フリでしたが、シリーズの中でも名作と言われているのが、この『奇想、天を動かす』。
なぜか電子書籍化はされていない?ようだったので文庫本を通販で取り寄せました。
メイントリックは、実は『金田一少年の事件簿』の作品にこの作品のトリックが使われているので、『金田一少年の事件簿』を読んだ人には既視感はあると思います。
これは『占星術殺人事件』トリックの「異人館村殺人事件」模倣トラブルがあった後なので、島田荘司先生公認なのだろうと思いますが。
ただ、微妙に違っていて、規模感では『奇想、天を動かす』のほうが大仕掛けですが、納得感では『金田一少年の事件簿』のほうが上回っていると思います。
この辺は比較すると面白いかも。
本格推理小説としては本当に面白くて、残りページ数で本当に全部のトリックが解けるのか読んでいるほうが心配になるくらいなんですが、綺麗に解決します。
電子書籍化されていない理由としては、まず一つは、本格推理小説の中にいわゆる社会派推理小説を入れ込んでおり、けっこう政治的な色彩が強いこと。これ消費税3%導入当初を舞台にした小説で出版もそのころだから炎上とかなかったんでしょうけど、今これを出版したら間違いなくネット右翼の標的になるんじゃないかなと。ただ、この社会派な部分があるところが作品の史的価値を高めているところもあると思います。もっと年数が経過すれば平成開始当初の世相を示す史料としての価値が出てくるかもしれない。
もう一つは、江戸の風俗(吉原の遊郭とかですね)の歴史を序盤でかなり細かく解説しているのは推理そっちのけでとても面白く読めるのですが、けっこう具体的に現在の地名を出しているので、これまたネット社会でなければ「東京にはそういう名残の場所もあるんだなあ、いつか見てみたいなあ」で済むところ、今は一瞬でスマホで検索出来てしまうので、その名前の挙がった地域に住んでいる人々や地主さんに迷惑がかかっちゃうかもしれないこともあるかな、と思います。
ともあれ読んで損はしないですね。名作でした。