みちのく砂丘Ⅱ

仕事と関係ないことについて書きます。

センチメンタルグラフティ2 その4(良いとこ探し・ネタバレあり)

前回、『センチメンタルグラフティ2』について未完成のひどい高難度ゲームと書きましたが、「前作の後日談として、ある意味では良く出来ている」とも書きました。

 

前回記事

センチメンタルグラフティ2 その3(難しい…) - みちのく砂丘Ⅱ

 

今回は、そんな良いとこ探し。

 

ただ、けっこう長文でネタバレします。前作のネタバレもあるので、これから『センチメンタルグラフティ』または『センチメンタルグラフティ2』を遊ぶ予定がある方は以下は読まないでいただければ。

 

 

 

このゲームのヒロイン達は全員、前作主人公の死(オープニングが葬式。「2」の時代から2年前)という辛い体験に接して、心を閉ざしてしまった状態からスタートしています。

そんな中で声をかけてきたのが大学写真部(正式名称は「光画部」)の部員である主人公。大学祭に出展する写真のモデルになってほしい、という動機で。

そうすると当然、主人公に対する反応は冷たいものになります。

心を閉ざして、傷心が癒えていないのに良く知らない大学生から「モデルになってください」ですからね。

前回記事で書いたように、下手すると主人公が4か月間(ゲームの期間は4月から7月)にわたって、街をうろうろするだけ、全てのヒロインからただひたすら冷たく淡々とあしらわれ、下手すると知り合いにもならないままで終わるゲームになります(笑)。

 

加えて、ヒロインが前作主人公との思い出とともに前作主人公を好きだったころの自分も封印してしまったのか、性格がだいぶ変わっています。

都市名で表記しますが、札幌、青森、金沢、高松の真面目系ヒロイン達はひたすら暗く塞ぎ込んでいて会話すら成立しないレベルだし、大阪は爽やかスポーツ少女だったのがバーに入り浸りのやさぐれた酒飲みになってるし、横浜も念願のアイドルにはなったもののCDがさほど売れなくて少し面倒くさい性格になってるし…という感じです。

 

そして一番変貌したのが仙台のヒロインです。前作では自分を「えみりゅん」、主人公を「ダーリン」呼びする特徴的な話法、ふわふわした不思議ちゃんな服装、オカルトや占いなど非現実的なことが大好き、デートそっちのけでUFO交信を始める電波シナリオっぷりで、ゲームの出来のガッカリ感と相まって「『センチメンタルグラフティ』と言えば仙台のえみる」というくらいの存在だったのですが…。

本作ではスーツを着こなす雑誌記者になっており、話し方も社会人としてごく普通の口調になっています。また、オカルトのような非現実的な対象の取材は記者として程度が低いと考えている様子がちらほら窺われ、恋占いも馬鹿馬鹿しいと言って嫌がるなど、相当に現実的な性格になっています。前作と比べて180度近く方向性が変わっており、もはや同一人物かどうかすら怪しいくらい。

他のヒロインはどっちかというとかなり後ろ向きに変化していますが、仙台だけは前作から精神的にかなり成長しているので、これはこれで有りかなと。

本作主人公と同い年ですが、主人公はアルバイトなので「バイトくん」と呼ぶようになります。他のヒロインはとっかかりができないと会話すらしてくれない人が多い中で、仙台は社会人として一応まともに相手してくれるので、プレイヤーの心も癒してくれるのでは。

 

 

閑話休題、ここからが全面的なネタバレ、かつこのゲームの最も良いところです。

 

 

上に書いた理由で、「センチメンタルグラフティ2」は、前作を遊んだことがあると、どのヒロインに対しても「性格、変わっちゃったなあ」と思いながら進めていくことになります。

ところが、終盤に差し掛かると、ヒロイン達は閉ざされた心を少しずつ「2」の主人公に開き始めます。すると、前作の時の(高校時代の)性格や話し方が復活してくるのです。そして仙台のヒロインもその例に漏れず、長らく封印していた電波な不思議ちゃんキャラが戻ってきます。

ただ、完全に高校時代に退行するわけでもなくて、仙台の場合は、社会人として身につけた現実感覚と昔の不思議ちゃんキャラが融合して、最終的にはちょうどいい感じのバランスが取れたキャラ(占いやオカルトの分野に優れた感覚を発揮する雑誌記者)になります。

 

これがゲームのシリーズ作品としてすごく優れた演出だなと思うのは、作中の「2」の主人公は前作の時のヒロインの姿を知らないので、話し方が変わったりそれまで見てきた性格に合わないことを言い出した時に「何か様子が変わった?」程度の反応なんですよね。

ただ前作から遊んでいるプレイヤーはメタ視点で見ることができるので、どのヒロインについても、前作の溌溂としていた時の姿を思い起こして、ちょっとじーんとしてしまうわけです。

なお、「2」の主人公はヒロインを見守る傍観者からスタートして、最終的にはヒロインの立ち直りを見守る補佐役ポジションという色合いが強く、各ヒロインとの恋愛要素は薄めです(ハッピーエンドでも恋愛に発展する予兆だけが描かれるパターンもある)。

このように「センチメンタルグラフティ2」はヒューマンドラマの要素が強く、それぞれのヒロイン達が前作主人公の死を克服するプロセスに主眼があるゲームと言えます。

 

後にも先にも前作主人公をオープニングで死なせたゲームは「センチメンタルグラフティ2」だけだと思うので、ゲームとしては唯一無二のコンセプトと演出です。唯一無二過ぎて前作ファンからはバッシングされた歴史もあったようですが、純粋に演出として見れば良く出来ているし、もっと評価されて良い。

その良さが一番顕著に出ているのが、不思議少女から現実的社会人へと変貌した仙台ヒロインだと思います。

 

そんなわけで、ゲームの設定上はたぶん札幌がメイン扱いですが(オープニングの葬式シーンでもセンターポジションなので)。個人的にはゲームのテーマと合っている仙台をメインヒロインとして推したいところです。