三度目の正直で、何とか飛ばし読みではなく「きちんと」読み切りました。
下巻の後半は久々に熱中しました。
岩波文庫の訳はすばらしい。
それに引き換え新潮文庫(2015年)の訳、もうちょっと頑張ってくれなかったかなと思います。原文の文区切りに忠実にしたっていうけど、語族が違うので、単純に文章がわかりにくいんですよね。
(以下ネタバレ)
身の丈に合わない幸せを夢見過ぎた結果の、浅慮と放蕩の報いが一気に来る感じ。
今回ようやく気付きましたけど、物語の始めと終わりだけ、主人公エンマの冴えない夫ことシャルルが主人公なんですね。
最終章で、エンマが死んでしまった後のシャルルの様子が描写されるのですが(ちなみに妻の濫費と借金の責任をとらされて落ちぶれています)、完全に病んでいて、もはや軽いホラーのよう。
ブログだから素人感想ですけど、エンマとシャルルは正反対の性格ではありますが、在りもしない理想の異性を愛そうとした、という点では共通してる気もするわけです。
エンマは、シャルルの中に自分の求める男性像が欠片もないことに気づき、レオンやロドルフとの不倫に走った。ただ、エンマは不倫相手に理想の男性像を見出して愛しているものの、不倫相手の側は、それぞれエンマの重たい愛情に応えきれなくなった。
他方でシャルルは、エンマ一筋。ただシャルルはエンマが自分を愛していないことにだけは気づいておらず、エンマの死後に全てを知った。しかし、シャルルの中でエンマは神格化されており、シャルルは死後にこそエンマを理想の女性として強く愛した。
現実のエンマは冷たかったし素っ気なかったけど、この世にいなくなったエンマの面影は(自分の頭の中の理想なので)邪魔されずどれだけでも愛せるというような感じかなと。
最後の最後、シャルルが偶然出くわしたロドルフに対して責めることもせず、(エンマの末路と自分の悲惨な状況は)「運命のせいです」と言い放つ場面があるのですが、これもまた最高に皮肉。
ロドルフがエンマに付き合いきれなくなってフるときに「これは運命のせい」というテキトーな言葉を思いついて用いた手紙を書いたのですが、これをエンマは大事に保管していた。そしてシャルルは手紙を遺品整理の時に読んでしまっているので、巡り巡ってシャルルの劇中最後のセリフになっているわけですね。
全く報われない終わり方。
しかしこれでハッピーエンドでもしっくり来ないから仕方ないのかな。