みちのく砂丘Ⅱ

仕事と関係ないことについて書きます。

谷間の百合

バルザックの小説『谷間の百合』(Le Lys dans la Vallée,1836)は、どっかでも書いてますが、読んでてイライラするくらい主人公がナヨナヨしててアレな小説ですけど、日本だと天保時代で大塩平八郎の乱(1837)が起こる前年くらいです。

つまり日本では文学のブの字もないような時代に今日の小説とあまり変わらないくらいの心理描写を成し遂げている。その意味ではフランス文学の圧倒的な先進性を見ることができる作品でもあります。

私は最初読んだバルザックの文学が『谷間の百合』でしたので、バルザックってこんなナヨナヨした文章ばっかり書いてんのかなと思ってちょっと苦手だったのですが、その後の他の作品読んでみると、むしろこの作品が例外的に美を追求していて、他の作品は基本的に写実的でドタバタしてます。綺麗なバルザックという感じでしょうか。

 

 

 

 

フランスで1970年に映画化されてるらしいんですけど、英語版も、当然日本語版もなく、Amazonとかでは見られない。

権利的には完全にアレですけど…Youtubeに切り抜きがあった。

https://www.youtube.com/watch?v=zXKBNGpFCUo

 

この場面、映像見ない人のために解説すると、序盤の山場です。個人的には屋敷のイメージがつかみづらかったので助かる。

 

モルソフ伯爵とテーブルゲーム「トリクトラク」で遊ぶ主人公フェリックス。若い青年貴族です。

実は最初からフェリックスは舞踏会で見かけたモルソフ伯爵夫人に一目ぼれしてしまい、夫人目当てでモルソフ伯爵と伝手を作り、伯爵の屋敷であるクロシュゴールドを訪れています。

ブルボン王政派だったことで田舎の閑職に追いやられ、暇を持て余しているモルソフ伯爵。その遊び相手になることで、伯爵夫人に近づくチャンスを得ようとしているわけですね。

伯爵は、そんなことはつゆ知らず、自分が好きなトリクトラクにフェリックスを誘います。それがこの動画の場面。

最初フェリックスはルールがわからないので伯爵はドヤ顔でフェリックスに教えているわけです。

しかし知性の高いフェリックスは、そんなに時間も経たないうちにトリクトラクのコツを覚えてしまい、伯爵に勝ってしまうようになる。

そうすると伯爵は突然機嫌が悪くなり(これに限らず伯爵は、悪人ではないものの、とにかく幼稚でヒステリックな性格として描かれています)、ふざけるな出ていけーみたいにキレ始めます。

それで慌てたモルソフ伯爵夫人がフェリックスに「あなたはお庭に出ていてください」と、その場を収めようとします。

 

この場面の後、暴れ疲れた伯爵は寝入ってしまい、クロシュゴールドの庭で、フェリックスとモルソフ伯爵夫人は二人きりに。

ここぞとばかり告白して求愛するフェリックス、それを完全拒否はしないにしても、伯爵との間に生まれた二人の子らの人生を重んじ、一線を超えることは絶対にしないモルソフ伯爵夫人(手を握るだけ)。

恋という言葉を使うことは絶対にしないものの、二人の間に恋愛に限りなく近い関係が生まれる瞬間に繋がるわけですね。

 

読んでてイライラするのは、フェリックスは何か終始、モルソフ伯爵の横暴から伯爵夫人を救い出す正義の味方面してるわけです。でも、最初から夫人を寝取りに来てるくせにふてぶてしい(伯爵も決して悪い人じゃないのに)としか映りませんし、その後も、結局フェリックスさえ来なければ夫人も…という展開になっているためですね。

フェリックス君は、現代日本の伝説の鬱ギャルゲー『スクールデイズ』の誠もかくやのキングオブクズな動きを披露しているので、興味のある方はぜひ文庫を。

ただイライラするかも(笑)。