みちのく砂丘Ⅱ

仕事と関係ないことについて書きます。

ダブリンの市民

20世紀アイルランドの作家、ジョイスの『ダブリンの市民』。

岩波文庫のほうは2004年の結城英雄氏の訳で、新潮文庫『ダブリナーズ』は2009年の柳瀬尚紀氏の訳です。

原題が Dubliners (ダブリンの人々)なので、どっちも同じ意味ですね。

 

ダブリンの市民 (岩波文庫)

ダブリンの市民 (岩波文庫)

 

  

 

ダブリナーズ (新潮文庫)

ダブリナーズ (新潮文庫)

 

 

文庫版で手に入りやすいのはこの二つですが、どっちがお薦めかと言えば圧倒的に岩波文庫のほうです。

というのも、各作品の解説がとても丁寧。

『ダブリンの市民』は、20世紀初頭のダブリンに住まう人々の、ほのぼの…ではなく、何となく停滞していたり荒んでいたりする日常を喜劇的に描いた物語15篇の短編集ですが、実は各作品ごとに、アイルランドの英国に対するコンプレックスとか、カトリックアイルランド土着・下層)とプロテスタント(英国由来・上層)との対立とか、深遠なテーマがあるようなのです。

よっぽど英文学に詳しい人でない限り、初見でテーマまで含めて読解することは不可能なはず。

その各作品に託されたテーマを丁寧に解説しているのが岩波文庫版のほうです。

 

新潮文庫のほうは…、故・柳瀬尚紀氏は天才的な訳者なんだろうと思いますが、こと作品解説に関しては玄人好み過ぎて意味不明です。岩波文庫版と比べ読みするのでなければ、単体で読むには相当厳しいです。