(分類としてはミステリー小説ですがネタバレありの記事なので注意!)
主人公は、教育学部の4年生。
実直ですが不器用でボンクラ気味なので一人だけ就職先が決まらなかったところ、日本海に浮かぶ離島にある「プラトン学園」という私立の中高一貫校に就職口が見つかったので、期待と不安を胸に単身島に渡る…というところからストーリーが始まります。
原作は1997年。
出だしはなかなか面白そうなのですが、最後まで読むと…。
まあ駄作とは言わないけど、賛否両論の実験作という感じですね。
万人向けではない。
これ、文庫版の帯や紹介文は、それ自体がネタバレになってます。
特に文庫版の帯には「電脳仮想空間」とか「カフカ的世界」(不条理な世界)としっかり書いてあるんですよね。
何で最初からネタバレ?と思うわけですが、まあ、前半の導入部だけ見たら出来の良い冒険サスペンス&ミステリーに見えてしまうところ、後半の展開で「何じゃこりゃ」と目が点になってしまう読者が(原作の時に)多かったから、文庫版ではあらかじめハードル下げておいたのかなと思います。
島に渡った主人公は、独特な教育システムを有するプラトン学園に戸惑うわけですが、プラトン学園内部の電子ネットワークシステム「プラトン学園」でいろいろ探索し始めるわけです。
この電子ネットワークシステム「プラトン学園」は、いわゆるヴァーチャルリアリティー(仮想現実)で、人が棒人間で表示される以外は、現実のプラトン学園と同じ学園内が再現されているわけですね。生徒たちもアクセスするので、ネット空間で授業やスポーツまでできてしまうという。
ところが、読み進めていくうちに、そもそも主人公のいる現実のほうが仮想現実なのではないか、モニターの中で動く棒人間のほうが現実には「現実」で、向こうの棒人間(実は人間)からはこちらが棒人間に見えているのではないか?とか、そもそも今いる「現実」も、モニターの中の「仮想現実」も、上位の「現実」のモニターの中の出来事に過ぎないのではないか?…という方向に、だんだんと仮想現実と現実の境目が曖昧になり始めます(後者は学生時代とかにふと考える空想であるあるですね)。
それだけならまだいいのですが、地底の大都市やら恐竜やらの話が出てきて、もう全然、学園と関係ないところにまで話が広がってしまいます。
最終章は、どちらかまたはどちらも仮想現実の主人公同士での会話で作品が終わります。何が現実かはわからないままなんですね。
…まあ、面白くなくはない。冒険譚としては楽しめるレベルです。
でも、やっぱり広げた風呂敷を畳みきれていない、竜頭蛇尾の感はあります。
最初の導入部は荘厳かつミステリアスな学園ものとして、それ自体出来が良いのですよ。
そこから学園の謎が解き明かされるところまで持っていってくれるんだろうか、と期待しながら読み進めると、恐竜だの何だのところで「バカミス」(おバカなミステリー)っぽくなって脱力してしまうのは事実。
それでも、原作が1997年で、まだインターネットも普及しておらず、ヴァーチャルリアリティーも「何かすごい新しいもの」でしかなかった時代に、こういった作品を世に出したというのは、なかなかすごいのかなと思います。
その意味では、今読むとイマイチだとしても、時代性を楽しむものとしては読んでみる価値はあると思います。